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中国最大手塾の最新AIサービスを紹介します - 中国EdTech#21

今回は第5回で紹介した中国最大手塾の好未来の最新AIソリューションを紹介します。好未来は、過去3年間で、AIラボ、シリコンバレーR&D部門、ポスドク研究ワークステーション、海外の大学との6つの共同研究所を設立しました。人工知能の分野では、5,000人以上の人員を要する科学研究チームを設立し、10億元以上の研究開発費を投入してきました。この精力的な技術開発の結果として生み出された人工知能技術は、中国教育産業において、どのように社会実装されているのでしょうか。他社の類似サービスとも比較しながら見ていきましょう。


今回扱うトピック

  • 中国塾最大手の好未来とは?
  • 好未来の新サービスのAIソリューションを開発中
  • 3大ソリューション
    • AI教室保護システム
    • 宿題レビュー/バッチ検索システム
    • AIソリューションの核となるWISROOM
      • WISROOM3つの派生サービス
        • 楽外教
        • 教研雲
        • T-Box
  • 数々のAIソリューションを開発する好未来のねらいとは?
  • 最後に


    中国塾最大手の好未来とは?

    好未来(TAL Education Group)は、張邦鑫によって2002年に設立された、小・中学生向けの塾です。現在は小・中学生の補習だけでなく、英語、留学、資格試験など、幅広い分野に展開しています。同時にEdTech分野では技術開発を積極的に行い、サービスプラットフォームを形成しようとしているのが、重要な特徴です。好未来の従来のサービスについては第五回に詳しく書いてありますので、興味のある方はこちらからどうぞ。



    3つの主要なAIソリューション

    好未来のAIソリューションのうち主要なもの3つを順番に紹介していきます。

1. AIが教室を監視する「AI教室保護システム」

AI教室保護システムは、教師の仕事を監督するのをサポートするシステムです。このシステムを使用すると、教室での教育効果の測定や教師と生徒の行動の定量的監視が可能となり、教師の行動の監視し、例えば、教師が汚い言葉を使ったら教師に通知をすることができます。好未来は,このシステムをすでに社内で実用化しています。類似サービスとしては百度のAI警備システムなどがありますが,教室内の監督支援ツールは珍しいです。類似サービスとしては百度のAI警備システムなどがありますが,教室内の監督支援ツールは珍しいです。

2. 巨大データベースを活用した「宿題レビュー/バッチ検索システム」

宿題レビュー/バッチ検索システムは、問題集のデータベースです。このデータベースにはK12に1億問以上の問題が蓄積されており、撮影添削ツールは写真を撮ると、写真認識の技術を用いてAIが1秒で宿題を添削し、関連知識を提示することが可能です。この2つのサービスは、他の機関に提供されます。

類似のサービスには百度題庫と猿補導のサービスがあります。百度題庫は、資格試験対策用の一問一答サービスと各試験の過去問・模試の共有サービスです。

猿補導は、一問一答式問題アプリの猿题庫、解答検索サービス小猿搜题(スマホで宿題の問題の写メを撮るとその解答を検索できるサービス)、そして小猿口算という自動添削サービスを提供しています。小猿口算では、手書きの解答を画像認識で読み取り、自動で正誤を判定することができます。


出典: 未来魔法校

3. AIソリューションのコアはスマート教室『WISROOM』

好未来AIソリューションのコアは、WISROOMと呼ばれるスマート教室のサービスです。WISROOMは2018年7月18日に公式リリースされ、ちょうど一年後にバージョン2.0がリリースされました。WISROOMの授業では、録画された教育コンテンツが教室の大画面に映し出されます。WISROOMの特筆すべき点は、AIシステムによって、再生されるコンテンツが変化することです。すなわち、教室内のカメラおよびマイクによって得られた映像と音声を、AIシステムが分析し、コンテンツが変化するので、ライブ感のある授業をすることができるのです。例えば、教室内のカメラが生徒の手の動きを認識し、教師は生徒に質問をして、回答を求めます。生徒が正しく答えると、生徒の写真が大画面に表示されます。また、生徒の集中度や現地補助教師へのフィードバックもAIが提供します。

そして、WISROOM最大の特徴は、授業が進むに連れて生徒の学習データが収集・蓄積され、各生徒に個別化されたレッスン内容を設計できる仕組みになっていることです。現在は外国人教師による英語の授業と数学の授業を提供し、合計500の教室を展開、5万人以上の生徒にサービスを提供しています。 WISROOMの派生製品として、「楽外教」、「教研雲」、および「T-Box」の3つのAI製品があります。教研雲とT-Boxは、スマート教室の基礎となるサポート製品です。これらについても,以下で紹介していきます。

WISROOM派生サービス1. AIを活用した次世代型双師授業ソリューション「楽外教」

楽外教(「楽」は楽しく学ぶという意味、「外教」は外国人教師の意味)は、双師授業モデルでAIベースの外国語授業を行うサービスです。ネイティブスピーカーによるオンライン講義と補助教師によるオフライン授業を組み合わせたもので,第3~5線都市にあたる中小都市の施設や学校に外国語教師コースを提供しています。中国では、これらの中小都市では人材不足で優秀な教師が集まりづらいという現状があり、それによって教育を受ける機会の不平等が生み出されています。双師授業を用いたこのサービスによってこの教育格差を埋めようという社会的な目標があるのでしょう。


双師授業の様子。教室前のスクリーンには外国人教師、教室内右には現地補助教師が教えている。出典:http://www.lewaijiao.com/

楽外教のキャッチフレーズは「AI哈佛外教课」で、日本語では「AIハーバード教師授業」です。好未来によると、ハーバード大学卒業生のネイティブ教師による高水準の英語教育とAI技術を用いたスマート教室のコンビネーションを提供しているということです。

「ハーバード卒教師100%(AI哈佛外教课)」、楽外教公式HPより。出典:http://www.lewaijiao.com/

技術面では、まず、スマート教室がもつモーション認識、集中度認識、アバターピッキングにより授業中の様子をAIで分析します。また、授業内ではマイク内蔵のワイヤレスクリッカーに対して英語を話し、音声認識・自動グレーディング技術によって採点し、生徒のスピーキング能力を計測することもできます。


ワイヤレスクリッカーを使用する生徒たち 
出典:http://www.hdb.com/party/c72aa.html

楽外教の授業では、「レッスンごとに1人あたり180回の発言」と「10分以上の積極的な参加時間」が要求されており、これらはAI機能の補助によって実現されています。現在、楽外教は、600以上の契約機関から4,500人以上の学生に提供されています。


英語の発音のテストをしている生徒。AIが音声認識で採点する。出典:好未来乐外教100%老师哈佛毕业

好未来が楽外教の特徴の中で強調している双師授業の利点について、以下の図にまとめました。双師モデルは、従来の授業形式を再定義し、塾業界に破壊的イノベーションを巻き起こす可能性を秘めています。

また、他社の双師授業の類似サービスとして代表的なものには、以下のようなものがあります。

  1. 自社の教師による授業を行うもの:
    新東方の双師東方
  2. B向けに企業・教育機関に双師授業のサービスプラットフォームを提供するもの:
    USKid、外教易、清成教育
  3. 公立学校に双師授業のサービスプラットフォームを提供するもの:
    楽学習、微語言、学邦在線

WISROOM派生サービス2. 教研雲

教研雲は、スマート教室のコンテンツを補助するクラウドサービスです。教師の仕事を効率化するため、従来の紙の教材をデジタル化しオンラインで提供します。教研雲は現在、500万件のテスト問題、2,000冊の本、10,000枚の写真、4,000のビデオ、1,000のミニプログラムをカバーしています。

WISROOM派生サービス3. T-Box

T-Boxは、スマート教室内のカメラやマイクによって収集されたデータを処理するためのAIターミナルです。T-Boxのコンピューティング機能は16TFLOP(テラフロップ、iphone XS約300台分の計算機能に相当 )に達し、同時に800人のモーション認識または200人の表情及び集中度認識を処理することができます。

計算処理のターミナルが各教室に設置されます。このターミナルによってスマート教室内で取得したデータが処理されるので、データをサーバーに送る必要がなく、高い処理速度と安全性を実現しています。


黒い箱がT-Box。出典:http://www.sohu.com/a/328711754_130148


数々のAIソリューションを開発する好未来のねらいとは?

CEOの白雲峰氏は、AIテクノロジーの発展により、「大規模個別最適化教育(大规模因材施教)」が可能になると主張しています。「大規模個別最適化教育」は白氏が繰り返しメディアに対してアピールしているキーワードです。インターネットやAIなどの技術が、教師の仕事を効率化することによって、生徒の学習体験を改善し、より公平で質の高い教育を社会全体に実現できるというのが、白氏の考えなのです。こうした考えに基づいて、WISROOMなどのAIソリューションによって「大規模個別最適化教育」を実現するのが好未来の究極的な狙いなのではないかと考えられます。


最後に

新東方と並んで中国塾業界の2大巨頭とされることの多い好未来はAI技術を取り入れたサービス開発でも比較的業界をリードしています。もともとブランド力があることもあり、好未来のサービス利用者も比較的多いです。では、今後の見通しや、改善点はどこにあるのでしょうか。

1つには、他社と比べてAIサービスの包括性が低いことが挙げられます。例えば、百度は、好未来よりもさらに広範なAI製品のサービスを展開しています。中国のインターネット大手のうち、edtechサービスへの参入が最も進んでいるのが百度です。以下の図に大まかな分類がされていますが、サービスの範囲はかなりのものです。詳細はこちらの記事をご参照ください。好未来は情報量や包括性では百度には劣りますが、塾で培ったコンテンツは、オンラインサービスでも大きな武器となっています。この点を生かして競合していくことで市場を勝ち取っていくことができるかもしれません。

そして、AI教師の改良がもう一つの課題となるでしょう。AI教師による授業では、プログラムによりパターン化された教師の言動に子供が飽きないか、という点も懸念されます。やはり現状の技術では、完全に生身の人間によるライブ授業をAI教師によって代替することはむずかしいようです。まだしばらくは、生身の人間の教師に教わりたいという需要は根強いでしょう。

また、ビジネス面では、研究開発コストに対して収益が少ないという認識が主流であるため、第一線の投資教育基金はによる投資はまだ少額にとどまっています。AI教師による教育やそれを可能にするためのオペレーションの困難さに懸念を示す投資家もいます。今後は、技術およびサービス改良の如何が好未来にとって重要となるでしょう。

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