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中国教育系ユニコーン「猿輔導」の超大型資金調達とEdTechスタートアップ投資戦争|中国EdTech#36

はじめに

今回は、いま急拡大中の中国EdTechスタートアップ「猿輔導(Yuanfudao)」を紹介します。猿輔導は、3月に世界のEdTech業界で史上最大の資金調達を完了し、中国のEdTechスタートアップ業界において今もっとも注目される企業の一つとなりました。今回の記事では、猿輔導の超大型資金調達の背景にある中国テックプラットフォーマーたちの競争についても詳しく解説します。

今回のトピック

・猿輔導とはどんな企業か?
・EdTech史上最大、10億ドルの資金調達
・コロナショックで投資が痩せ細る中、独り勝ちの巨額調達
・テンセントの存在感を反映した巨額調達
・EdTech分野での投資合戦による競争激化

猿輔導とはどんな企業か?

まずは、猿輔導の基本情報について見ていきます。猿輔導は、2012年に元「網易(NetEase)」*の社員によって創業されました。

現在提供しているサービスの多くは、オンライン講義「猿輔導(Yuanfudao)」、英語学習アプリ「斑馬AI課(Zebra AI)」などのような、K12(小学生〜高校生のこと)向けのオンライン教育サービスです。もともと一問一答式問題アプリの「猿題庫(Yuantiku)」と解答検索サービス「小猿搜題(Xiaoyuansouti)」という2つの学習補助サービスを開発・提供しており、そのユーザーを別のサービスに囲い込むことで成長を遂げてきました。サービスの詳細については次回の記事で詳しく解説します。

*網易(NetEase):中国のインターネット大手企業です。EdTech分野でも、有道精品課(Youdaojingpinke)というオンライン講義サービスなどを提供しています。

猿輔導の基本情報

出典:企查查などをもとに筆者が作成

猿輔導の提供する全プロダクトの累積ユーザー数は、2020年1月に4億人を超えました。ユーザーのセグメントは就学前児童から高校生、保護者や教師など幅広く、そのサービス内容はオンライン授業から学習補助アプリまで様々です。

EdTech史上最大、10億ドルの資金調達とその背景

2020年3月に猿輔導は、10億米ドルを資金調達(シリーズGラウンド)しました。世界中の教育企業の歴史上、1回の資金調達額としては最大規模となり、猿輔導は教育スタートアップの歴史に名を刻むこととなりました。また、今回の資金調達で、その評価額は78億米ドルとなり、中国で最も評価額の高いEdTech企業の一つとなりました。

各有力EdTech企業の資金調達額の推移

出典:Holon IQ
この前代未聞の資金調達の背景には、新型コロナ流行や中国ITプラットフォーマーたちの競争などがありました。その背景について1つずつ見ていきます。

コロナショックで投資が痩せ細る中、独り勝ちの巨額調達

2020年3月の中国教育業界の投資を前年同月と比較すると、その件数は14件減少して20件のみとなりましたが、全体の投資額は10倍近くになりました。猿輔導の10億ドルはその83.7%を占めています。もともと中国のEdTech投資は2018年から縮小傾向にありましたが、新型コロナ流行の影響でEdTechスタートアップ投資はさらに冷え込みました。ところが、猿輔導はそのトレンドに逆行する形で、歴史的規模の資金調達に成功しました。新型コロナ流行の影響で学校や塾が閉鎖となり、EdTechサービスの需要は拡大し、大きくユーザーを伸ばしましたが、その中でも猿輔導のサービスが特に評価されているのかもしれません。
ちなみに、2019年の猿輔導の売り上げは30~40億元で、ある情報筋から2020年は売り上げ100億元を突破し、もっとも売り上げの高いEdTech企業となることを目指している、という情報が入ったと、中国メディアの36Krは伝えています。参考程度に、2019年の年間売上高が100億元であった場合、中国EdTech企業の売上高ランキングでは4位に位置します。
猿輔導の圧倒的な巨額資金調達と評価額は、業績などが評価され、そのビジネス的有望性を買われているからでしょう。
参考:https://36kr.com/p/1725347905537

テンセントの存在感を反映した巨額調達

今回のGラウンド資金調達の調達元は、「テンセント」、「高瓴キャピタル」、「博裕キャピタル」、「IDGキャピタル」です。

中国2大プラットフォーマーおよびそれぞれに対応する米プラットフォーマー

出典:筆者により作成

EC大手の「アリババ」とともに中国2大プラットフォーマーとされるテンセントは、オンライン講義プラットフォームの「騰訊課堂(Tencent Classroom)」など、自社でEdTechサービスを構築しています。それに加えてスタートアップ投資でもEdTech分野に莫大な資金を注ぎ込んできました。猿輔導への投資だけでなく、猿輔導に次ぐ規模の子ども向け英語教育スタートアップ「VIPKID」や、中国学習塾大手「新東方」傘下の「新東方在線(koolearn.com)」、「瘋狂老師(entstudy.com)」、「易題庫(yitiku.cn)」、「ABC360」など多数のEdTech企業への投資を実行してきました。テンセントの投資会社としての側面が、EdTech分野で大きな存在感を放っています。

EdTech分野での投資合戦による競争激化

アリババとテンセントは、これまで長きにわたってあらゆる種類のテック企業への投資合戦を繰り広げてきました。最近ではその投資合戦にショートムービーアプリ「Tiktok」や、中国でもっともユーザーの多いニュースアプリ「今日頭条(Toutiao)」などで急成長するバイトダンスも参入してきています。

この市場争いはEdTechにも及び、三つ巴の激しい競争が展開されています。その手法に着目すると、アリババやテンセントは投資にかなり力を入れていますが、バイトダンスは投資に加えて社内の新サービス開発力を武器に攻勢をかけているとされます。バイトダンスは「アプリ量産工場」と呼ばれるほど、自社内で次々と多種多様なアプリを開発しており、テンセントの投資先であるVIPKIDのライバルとなる英語アプリ「GoGokid」、猿輔導の幼児向け英語アプリ「斑馬AI課」によく似た「瓜瓜龍英語」などがあり、また20以上のアプリが開発段階にあると伝えられています。


出典:筆者作成

投資の面では、バイトダンスは猿輔導のライバルにあたるK12向けオンライン家庭教師ブランド「学霸君(Xueba100.com)」に戦略投資をしています。さらには、自社開発のK12向けオンライン家庭教師プラットフォーム「大力課堂」をローンチする前に、オンライン教育プラットフォーム「清北網校(Qingbei)」を2000万元(約3億円)で買収しています。こうした投資合戦におけるバイトダンスの勢いがテンセントらの投資をさらに加速させたことも、猿輔導の巨額調達の一因だと考えられます。

参考:https://36kr.com/p/1725345906689

終わりに

今回の記事では、猿輔導の資金調達とその背景を中心に紹介しました。次回は、猿輔導のサービスについて詳しく解説します。

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