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コロナを経験したEdTechトレンド展望 後編 - 中国EdTech#34

はじめに

第31回から、中国の学校教育およびEdTechビジネスにおける新型コロナの影響を、前編・中編・後編に分けて順番に解説しています。今回は後編です。前編はこちら。中編はこちら

今回扱うトピック

  • コロナ下の学校教育はどう変わったか?
  • コロナウイルス蔓延の影響でオンライン教育が急加速
  • EdTechのどんなカテゴリーが伸びているのか?
    • オンライン講義:オンラインで自社の授業を提供している塾
    • 学習ツール:宿題の補助など
    • 授業映像プラットフォーム:ライブ授業やビデオ教材シェアのためのプラットフォーム
    • クラス運営プラットフォーム
  • EdTech利活用が進んだ地域特性
  • コロナを経ての中国EdTechの展望
    • 中長期的な展望
    • EdTech業界の構図はどうなるのか

前編・中編では「学習ツール」までを解説しました。後編となる今回は、新型コロナウイルスの影響を受けてEdTech利活用が進んだ地域特性と、今後の中国EdTechの展望を解説します。

EdTech利活用が進んだ地域特性

前編・中編ではコロナの影響を受けて急速に利活用の進んだEdTechサービスを見てきましたが、EdTechサービスのユーザー拡大ペースには地域差が見られます。
中国の都市の発展レベルを議論する時、級別分類というものがよく使われます。級別分類は、以下の基準に基づいています。

・1級都市:北京、上海、広州、深圳を指す
・新1級都市:成都、杭州、蘇州、重慶、武漢など、1級都市に準ずる経済規模の都市を指す
・2~3級都市:大連、ハルビン、桂林など、中間レベルの経済規模の地方都市を指す
・4~5級都市:ラサ、漢中、景徳鎮など、比較的貧しい農村地域を指す

下のグラフは2020年2月時点での人口100人当たりユニークユーザー数を表したものです。その値は、都市級別で、1級都市が26.74人、2~5級都市で11.74人と、倍以上の差があります。現状、大都市圏と地方都市や農村部のEdTech普及率にかなりの差があるようです。


出典:艾瑞产业研究洞察中国国家統計局のデータを基に筆者が作成

一方で、ユーザー数の成長率は、大都市よりも比較的経済発展の遅い地域の方が高くなっています。下のグラフは、2020年2月の都市級別の教育系アプリユニークユーザー数の前年同月比増加率を表しています。(2~5級都市に関しては、各級ごとの人口データが取れないため、まとめた数値を表示しています。)

2級~4級都市における前年比増加率が8.6%~16.8%となっており、1級、新1級都市に比べてかなり高いことがわかります。EdTechアプリユーザーの伸びが特に大きかったのはいわゆる地方都市レベルに相当する2級都市(増加率16.8%)でした。


出展:艾瑞产业研究洞察

以上2つのグラフからわかることをまとめると、以下の3点になります。

・大都市ほどEdTechサービスがすでに浸透している(普及が早かった)
・大都市(1級、新1級都市)よりも地方都市や農村(2~5級都市)におけるEdTechサービスのユーザー数の増加が著しい
・特に2級都市における成長が圧倒的である

これらの地域格差が起こされている要因について、以下でいくつか仮定をたててみます。

教育支出の地域差によるもの?

以下のグラフに示されているように、都市級が上級(数字の小さい級を上級とします)であるほどに一人当たり消費支出は高い傾向があります。1級都市と5級都市では倍近くの差が開いており、教育支出に関しても同様の地域差が見られると考えられます。


出典:国家統計局および地方統計局

新型コロナ流行後、多くのEdTech企業がサービスの無料公開等のキャンペーンを行ないました。これにより、これまで経済的な余裕のなさから学習塾などへの教育支出が少なかった家庭が、オンライン教育の新たなユーザーとして流入してきた可能性が考えられます。

オンラインサービスに対する受容性の差異によるもの?

オンラインサービスの利用には、ユーザーのオンラインサービスに対する意識が影響していると考えられます。
地方都市および農村部ではこれまで、都市部に比べてオンラインサービスを利用することへの抵抗感を持つ人が多かった可能性があります。新型コロナウイルス流行に伴う外出自粛の影響で、学校や学習塾などオフラインの教育機会が強制的にオンライン化を余儀なくされました。これにより、これまでオンラインを嫌いオフラインの塾や教育機関を選択してきた人が、オンラインサービスの利用を始めざるを得なくなったことも、2~5級都市での教育系アプリのユニークユーザー大幅増加の一因と考えられます。

北京や上海などの経済発展の比較的早かった1級都市ではすでにEdTechサービスが広く普及し、飽和状態に近いことが予想されます。新型コロナウイルス流行の影響で全国的にオンライン教育が普及しようとしているなかで、人口の多い農村や地方都市の潜在的な顧客を取り込むことは、EdTech企業の成長にとって非常に重要となるでしょう。

コロナを経ての中国EdTechの展望

中長期的な展望

ここまで述べてきたように、コロナの影響でEdTechサービスの利用は大きく伸びています。しかし、その大きな要因は授業無料公開などの短期的なキャンペーンと防疫期間中の学校・塾の閉鎖という特殊な状況です。現在、中国の防疫状況はある程度安定してきたようですが、今後は成長スピードが落ちる企業も出てくるでしょう。そんな中、どのようなEdTech企業やサービスが生き残るのでしょうか。

ここでは、中国教育大手「新東方」傘下のオンライン教育サービス「東方優播」CEOの朱宇氏の展望をご紹介します。朱氏は、長期的にはオンライン教育各社の教育モデルの競争が起きるとし、学生の成績を上げる、技能を身につけるといったニーズに応えることができれば、中長期的にも成長していけるだろう、としています。保護者や学生が本当に優れたサービスを体験できるかどうか、すなわちサービスの質によって、市場で生き残れるかどうかが決まるでしょう。

EdTech業界の構図はどうなるのか

また、EdTech企業の競争の末に、ユーザーの所得水準(貧困層、中間層、富裕層)や、学生の成績(悪い、中くらい、良い)などの細分化された市場ができあがると朱氏は予測しています。具体的には、多人数クラスを運営する企業は比較的寡占に近い状態となって10数社が生き残り、一方で少人数クラスを対象にしたサービスは画一化されたパッケージで提供できるものではないため、より多くの企業が生き残り、大手とよべるまでになるのは2〜3社で残りのシェアはオフラインの小規模事業者が取り合うような形になるだろうと、朱宇氏は予想しています。前述の通り、EdTechが富裕層や大都市以外にも浸透しつつあり、貧困層や中間層のEdTech市場が拡大していく中で業界の構図がどうなっていくかは、今後注目すべき点でしょう。

参考:「新型コロナでオンライン教育業界の再編が進む」、教育大手の新東方に取材

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