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中国教育産業を取り巻く政策 後編(EdTech規制) - 中国EdTech#29

はじめに

中国EdTech業界において中国政府は、まずは市場の自由競争に任せて市場を発展させ、その中で育った良質なサービスを選んで公教育にも導入し、低質・悪質なサービスは市場が発展した後に規制をかけて排除する、という立ち回り方をしています。

前編と中編では、EdTechの発展を促進する政策を解説してきましたが、今回は後編として、その次の段階であるEdTechの規制について解説します。

EdTechサービスに対する規制

2018年 「学生の負担軽減」を目的としたEdTech業界へのテコ入れが開始

2018年に、校外教育機関に対する整理プログラムが正式に開始され、これ以降EdTech産業の健全な発展のための規制と促進とが融合した政策が採用されるようになりました。

同年2月、「关于切实减轻中小学生课外负担开展校外培训机构专项治理行动的通知」(校外教育機関の展開における小中学生の課外負担軽減のための特別管理措置についての通知)が発布され、生徒に過度な負担を課している教育機関を見直すことが明記されました。陳宝生教育部長官はメディアに対して、「ここでいう負担とは、負担すべき学術的な課題でも、完了すべき学術的な課題でも、しかるべき努力でも、負担すべき費用でもありません。 負担とは、主にシラバスを超えた部分を意味しています」と述べており、ここでいう負担とは例えば学習塾での過度な学習負担などのことだとわかります。

この通知によって、オンライン教育に対する規制実施の青写真が提示されました。内容をまとめると以下のようになります。

  1. 党委員会と政府の指導の下、教育行政が主導し、民政、人間社会、工商(市場監督)などの各部門との共同責任のもと、省、市、県レベルで3段階の作業メカニズムを構築し、包括的かつ効果的な組織化と実施を目指す。
  2. 県教育行政は、生徒の課外負担を増大させるような小・中学校や教員に関する不正を管理する責任がある
  3. 県レベルの教育行政部門が中心となって、ホワイトリストの策定と非行のない課外研修機関のリストの公表、ブラックリストの策定と脆弱な情報セキュリティ、低質、非行のある校外教育機関のリストの公表を行う。
  4. 小・中学校は、校外教育機関に在籍するすべての生徒を調査する責任があり、統治業務の重要な参考資料とする。

また、教育部は、同年1月には「 关于加强网络学习空间建设与应用的指导意见」(オンライン学習空間の構築と活用の強化に関する指導意見)を、同年3月には「2019年教育信息化和网络安全工作要点」(2019年教育情報化・サイバーセキュリティ業務の要点)を発表しています。 2つの政策の目的は、教育の情報化の発展を加速させ、正確で、規範に基づいた、安全な教育を前提とした、スマート・デジタル化された教育を実現することです。ここにおいて重視されているのが、オンライン教育の発展の中で発生した情報セキュリティの問題です。情報セキュリティの脆弱なサービスは、翌年に策定された基準に基づき、ブラックリストに登録されることになります。

同年9月に教育部など11の政府機関が共同発表した「关于促进在线教育健康发展的指导意见」(オンライン教育の健全な発展の促進に関する指導意見)では、主にオンライン教育に関する施策を推進・奨励しています。 本政策には、"社会がオンライン教育機関を組織し、オンライン教育とオフライン教育の融合を促進し、オンライン教育人材の育成強化を奨励する "と明記されています。

まとめると、2018年の時点では、中国政府はオンライン教育の促進と同時に、その先の規制についても見据えたプランを策定していたと言えるでしょう。

2019年 校外教育機関の規制基準策定

2019年には、オンライン機関に関するより具体的な規制措置が発表されました。7月に、教育部等6部局が共同で、「关于规范校外线上培训的实施意见」(学外でのオンライン教育機関の規範化に関する実施意見)を発表しました。なお、本政策は受験科目等の科目学習分野におけるオンライン教育機関の規範化に焦点を当てており、素質教育分野は対象から外された点は注目に値するでしょう。

  1. 研修内容が基準やシラバスを超えてはいけない
  2. 研修時間は、1セッションあたり40分以下休憩時間は10分以上義務教育段階の生徒のライブ授業は21時以前でなければならない。
  3. 研修員には、小・中学校の教員を雇用してはならず、国が定める相当の教員資格を有していなければならない。
  4. 時間単位で料金を請求する場合は、一度に1科目につき60時間を超えて請求できない。 研修サイクル単位で請求する場合、そのサイクルは3ヶ月以下でなければならない。

この政策を受けて、2019年12月31日までに、全国の計718の学外オンライン学習塾は、学外オンライン学習塾管理プラットフォームに資料を提出しました。すでに基本調査は完了し、問題のある教育機関は2020年6月末までに改善を行います。

同年8月には、教育省など8つの部局が「关于引导规范教育移动互联网应用有序健康发展的意见」(教育用モバイルインターネットアプリケーションの秩序ある健全な発展のための指導・規制に関する意見)を発表しています。教育アプリを包括的に規制する政策文書としては国レベルで初めて発行されたものです。その後、2つの文書が続き、同年11月には教育部が「教育移动互联网应用程序备案管理办法」(教育用モバイルインターネットアプリ出願規則)を発布しました。同年12月に文科省が教育アプリのホワイトリストとブラックリストを発表しました。

オンライン教育の規制に加えて、オフラインの教育機関に対する規制も発動しています。同年4月には教育部が「禁止妨碍义务教育实施的若干规定」(義務教育の実施を阻害する行為の禁止に関する一定の規定)を公表し、校外教育機関を義務教育の補完的なものと明確に位置づけ、校外教育機関の業務範囲を定めました。オフライン研修機関の引き締め政策により、学校運営費が高騰し、経営状況が悪化し倒産する企業もでてきており、業界再編が起きています。

終わりに

まとめると、2019年は政府が教育サービスに対する規制措置を実際に取り始めた年だったと言えます。オンライン学習塾の質はばらつきが激しく、10年前のコンテンツをそのまま流用している学習塾もあります。また、過度な自由競争の結果生まれたスパルタ式の学習塾等も見直しの必要があるでしょう。一連の政策の流れは、2018年までは、ある程度無秩序・自由にサービスの成長を放任的であった政府が、本腰を入れて管理・規制を始めたものとして捉えられます。新しい産業や技術・サービスの導入には放任的で、問題が発生したら規制を始めるという方針が採られるという中国政府の方針は、EdTech業界に限らず様々なテクノロジー産業において見られるものですが、今後も規制政策の動向と各サービスがそれにどう対応するかという点には注目していく価値がありそうです。

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