




中国教育産業を取り巻く政策 前編(テクノロジー政策) - 中国EdTech#27
2020.03.13
はじめに
これから中国の教育産業を取り巻く政策について、前・中・後編の3回に渡って概観していきます。全3回で扱うトピックは以下の4つです。EdTechサービスの成長に寄与した政策は大きく1~3の3つに分類でき、それに規制に関する内容を加え、以下4トピックとしました。
1)AIを中心としたテクノロジーの開発・応用
2)素質教育推進政策
3)反貧困政策
4)EdTechサービスに対する規制
今回は前編として、AIを中心としたテクノロジーの開発・応用について概観します。
AIを中心としたテクノロジーの開発・応用
中国のEdTech産業の成長にとって重要な政策の一つが、AIを中心とした次世代技術の開発を促進する政策です。2013年に発足した習近平国家主席及び李克強首相政権下で実施されてきた経済政策は、EdTech産業の成長を支えた大きな要因の一つと言えます。
次世代技術の開発を推進する潮流の中で、スタートアップやVCへの支援が強化され、EdTechスタートアップにも投資が集まり、中国のEdTech業界が急成長を遂げたという経緯があるからです。
そこで、今回の記事では、習李体制下で実施されてきたイノベーション推進・スタートアップ支援・テクノロジー開発等の経済政策の大まかな流れを解説します。
今回扱うトピック
今回の記事で扱うトピックは以下の4つです。
- 「双創」ー中国イノベーション推進政策のキーワード
- 中国製造2025
- テクノロジーの開発・応用に関する政策
- テクノロジー教育およびEdTech分野での事例
1と2で「双創」という政策上のバズワードと、テック関連の重要政策である「中国製造2025」を紹介し、3ではAI開発に関わる近年の計画について解説します。4では、AI開発政策についてEdTechに関わる事例を紹介します。
「双創」ー中国イノベーション推進政策のキーワード
李克強国務院総理が、 2014年9月のダボス会議で「双創」という概念を提起しました。双創とは、「大衆創業・万衆創新」の略称であり、一般大衆による創業・革新を意味します。2014年ダボス会議以降、李克強国務院総理はこの「双創」というフレーズを頻繁に用いるようになり、2015年6月11日には中国国務院が「关于大力推进大众创业万众创新若干政策措施的意见」(大衆創業・万衆創新の強力な推進のための新政策に関する意見。以下、「意見」と呼びます)を発布したことで、「双創」が明確に政策に盛り込まれました。具体的には、起業の阻害要因となるような制度の是正や、条件に応じた減税、資金調達の支援などの政策を展開しています。
さらに、「意見」の中で国内VC設立に関する規制緩和が行われました。これが功を奏してか、以下のグラフからわかるように、2014年以降、人民元建のVC投資額はその増加傾向が勢いを増しています。
出典:中国の起業ブームとベンチャーファイナンスの動向
また、企業のための拠点づくりとして、「衆創空間」、すなわちインキュベーター・コワーキングスペース・メーカーズスペース(3Dプリンターなどデジタル工作機械を共同利用する工房)を含んだ包括的なスタートアップ支援のための空間を支援する政策も打ち出されました。
中国製造2025
これらの双創政策推進、言い換えると、イノベーション創出による次世代技術の社会実装の促進を背景として、2015年7月に「中国製造2025」という産業政策が国務院から発表されました。
当時の中国は、大量製造を実現した「製造大国」ではあったものの、自主的イノベーション能力、資源利用効率、産業構造、情報化レベル、品質や生産効率などで他国から大きく後れを取っており、「製造大国」から「製造強国」に変貌するために生産方式の転換が必要だという自己認識を持っていました。こういった事情を背景に発布された中国製造2025は、製造業の大量生産から品質・効率の高度化への転換を果たし、2025年までに「製造強国」の仲間入りすることを目指す、習近平政権肝入りの産業政策です。
中国製造2025では、下図に示したように、9大戦略目標や5大プロジェクト、重点を置く10の分野を掲げています。これら全てが製造業の高度化を目指すものですが、特に9大戦略目標の中でコアとなるのが「情報化・工業化融合の深化」、すなわち、情報を活用することで製造の品質や効率を向上するといういわばスマート製造です。
出典:進化し続ける「世界の工場」「中国製造2025」に見る製造強国戦略
双創政策の流れを汲んだこの政策のもとでイノベーションセンター設立などが重要プロジェクトとして盛り込まれ、スタートアップ支援を後押ししました。
また、生産性向上や技術力向上のために、インターネット等の情報技術と製造業を融合させた「スマート製造」を推進する様々なプロジェクトが遂行されました。
まず、各企業または事業内で情報システムが隔絶されている問題を解決するために、中央政府は343億元を投資し、 スマート製造の標準化実証実験やモデル応用に関わる226のプロジェクトを実施しました。
また、2015~2017年にかけて、全国207の企業をモデルケースとして指定し、スマート製造を促進した結果、生産効率は32.9%、エネルギー効率は11.3%上がり、運営コストは19.3%削減、製品R&D周期は30.8%短縮、製品不良率は26.3%削減を達成するなど、効果が数字に表れ始めています。
さらに2016年後半には、12都市・4都市群がモデルシティとして設定されました。中央政府は200億元(約3000億円)を支援し、各都市にも年間数十億元の補助金を提供するなどして、より大規模な支援策を実行しています。例えば、中国南方の寧波市政府は3年間で100億元(約1500億円)の予算を確保し、企業の工業投資や技術改造投資、マッチング補助金を提供しています。
参考:進化し続ける「世界の工場」「中国製造2025」に見る製造強国戦略
テクノロジーの開発・応用に関する政策
「中国製造2025」に示されたような産業への情報技術の応用が求められていることなどを背景に、2017年にはAI産業発展のための政策、「新一代人工智能发展规划」(次世代人工知能発展計画。以下、「発展計画」と呼びます。)と「促进新一代人工智能产业发展三年行动计划(2018-2020年)」(次世代人工知能産業の発展促進に関する3年行動計画(2018-2020年)。以下、「行動計画」と呼びます。)が発表されました。
2017年7月に発表された「発展計画」は、AI産業発展に関する全体的な戦略的目標を示したものです。AI産業の開発や発展に関する2030年までの「3段階目標」が設定されました。
この「発展計画」を具体化・細分化したものが「行動計画」であり、2020年までの中間目標を定め、以下の4分野を重点的に支援することが明記されています。
- AI重点製品の大量生産
- 重要な基礎能力の全面的強化
- スマート製造の発展深化
- AI産業の支援体制の確立
テクノロジー教育およびEdTech分野での事例
これまで、中国の中央政府による政策を紹介してきました。最後に、こうした政策が具体的にはどのような事例に結実しているのかを見てみましょう。
ここでは、中国の地方政府による施策に注目します。それは、地方政府の政策は中央政府が出した全体方針を踏まえて形成されるものだからです。
中国の政策決定過程を簡単に解説すると、まず中央政府が全体的な方針を出し、それに対応した形で地方政府(省・市)がそれぞれ具体的な政策を発表します。中央政府がAI産業発展促進を全国に呼び掛け、それに続く形で、各地方政府でも行動計画などが発行され、具体的な政策が実行されました。
例えば、北京市から出された行動計画は以下のようなものです。
「北京促进人工智能与教育融合发展行动计划」(北京人工知能と教育の融合発展の促進に関する行動計画)2019年07月31日発布
- 高等教育におけるAI学科の創設
- 人工知能リテラシー教育と実践活動を促進
- 個別化と規模の両方を考慮した質の高い基礎教育の実現
- 人工知能イノベーションセンターの創設
これは、AI産業発展および教育を促進するための行動計画です。例えば、1点目の「高等教育におけるAI学科の創設」に関しては、中央政府のAI学科設置促進に関する政策に端を発しています。2019年度には北京市では11の、中国全体で180の高等教育機関でAI学科が新設されました。
出典:180所高校新开本科!人工智能专业受青睐
また、杭州市を例に挙げると、スマート教育推進として学校教育にAIなどの技術を取り入れ、教育情報化を推し進めることを目的として、2019年には市内の69の学校をスマート教育モデル学校に指定し、情報技術を利用した教育を提供しています。
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