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年1000%成長のオンラインピアノレッスンアプリ“VIP陪練”大解剖ー前編 - 中国EdTech#19

はじめに

今回は、中国の音楽教育の業界で有力なスタートアップである上海妙克信息科技の「VIP陪練」というサービスを紹介したいと思います。VIP陪練はアプリを用いてオンラインでピアノなどの楽器のレッスンをするサービスで、リリース以来毎年1000%というユーザー増加率で爆発的なスピードで拡大しています。



今回扱うトピック

  • 中国最強のオンラインピアノレッスンアプリを作ったスタートアップとは!?
    • 上海妙克信息科技有限公司の基本情報
    • 中国音楽教育業界の切り込み隊長葛佳麒はどんな創業者なのか?
    • シリーズCで164億円を調達
  • VIP陪練の基本情報
    • レッスン概要:オンラインで通話しながらの個人レッスン
    • 価格
    • サービスの強み
  • これまでの実績と成長
    • 圧倒的な教師の数
    • 中国国内外で超高速拡大する生徒数、年成長率1000%!?
  • 今後の課題と将来性
    • 教師の質の担保が課題となるか?
    • 今後、テクノロジーをどう活用するか?
  • 最後に




中国最強のオンラインピアノレッスンアプリを作ったスタートアップとは!?

まずは,このVIP陪練というアプリを提供するスタートアップ、上海妙克信息科技の基本情報を見ていきましょう。

上海妙克信息科技有限公司の基本情報

企業名 上海妙克信息科技有限公司
創業者兼CEO 葛佳麒
創業年 2014年12月
所在地 上海市虹口区

創業者葛佳麒はどんな人物なのか?

創業者は、上海師範大学音楽表現学科出身のアコーディオン奏者である葛佳麒という男性です。こちらのインタビュー動画(英中字幕付き)には英語字幕もありますので、彼についてさらに知りたい人はご覧ください。動画内にはアコーディオン演奏シーンもあります。

シリーズCで164億円を調達

資金調達の歴史

時期 ラウンド 金額 調達先
2014年12月 エンジェル 数十万ドル 藍馳創投
2016年8月 Pre-A 100万ドル 金沙江創投
2017年5月 A 数百万ドル 金沙江創投、長石資本、金沙江創投
2018年1月 B 数億元* Tencent、蘭馨亞洲、好未來、藍馳資本、金沙江創投、長石資本
2018年11月 C 1.5億ドル 老虎環球基金領投、Tencent、蘭馨亞洲、金沙江創投、藍馳創投、長石資本、北京華聯長山興

*(1RMB=1.42USD)

VIP陪練は飛躍的な進歩を遂げ、資本市場から注目を集めてきました。 2018年初頭、Tencentや蘭馨亞洲などの投資機関から数億元の資金調達(シリーズB)に成功し、中国素質教育の歴史における調達額の最高記録となりました。その後、同年11月に1.5億米ドル(約164億円)の資金を調達(シリーズC)し、自身の記録をさらに塗り替えました。調達先は老虎環球基金領投、Tencent、蘭馨亞洲、金沙江創投、藍馳創投、長石資本、北京華聯長山興です。



VIP陪練の基本情報

基本情報

サービス名 VIP陪練
ローンチ時期 2016年
運営企業 上海妙克信息科技有限公司
提供しているサービスの分類 素質教育(音楽教育)*
対象年齢(ターゲット) 主に5~16才
ユーザー数 約100万人
課金ユーザー数 約16万人

*本記事では素質教育の中に音楽教育があるとしていますが、諸説あります。

続いて、VIP陪練のアプリそのものについて見ていきましょう。VIP陪練は、上海妙克信息科技有限公司が提供するマンツーマンのオンラインピアノレッスンのサービスです。

レッスン概要:オンラインで通話しながらの個人レッスン

レッスン中は音声通話で生徒と先生をつなぎ、先生が画面に教材を映し出し、文字を書こみながら教えてくれます。授業の内容等は先生と生徒やその保護者の間で相談して決めることができます。さらに具体的な授業内容は、後編記事の体験授業ルポにて説明します。




これまでの実績と成長

圧倒的な教師の数

VIP陪練にはピアノ教師が約2万人在籍しており、そのすべてが大学でピアノを専した経験を持ちます。なかには、主に海外在住の中国語の苦手な生徒向けに英語で教えることのできる教師もいます。生徒は好きに教師を選ぶことができ、毎回同じ教師に教わることも可能で、スケジュールを合わせてアプリ上でアポを取り、毎回の授業を受講します。

2万人と聞いてもイメージが浮かびづらいと思うので、日本のデーターと比較してみましょう。日本のピアノ教室は約2万軒あります。その中には、個人運営の教室も、多数の教師を擁する大手の教室もあるので、仮に一軒当たり3人のピアノ教師がいるとすると、日本のピアノ教師総数は約6万人です。VIP陪練の2万人という数字はかなりの規模であることがわかるでしょう。



中国国内外で超高速拡大する生徒数、年成長率1000%⁉

生徒の総数、つまりアプリのユーザー数は約100万人です。この数字には、無料体験授業を受けただけのユーザーと、授業を受講している課金ユーザー両方が含まれます。ユーザー数は、直近の3年間で毎年1000%のペースで超高速成長を遂げています。受講学生は16万人ですが、そのうち3万人ほどが中国国外におり、国外の受講者のほとんどは華人です。支払いはWeChat PayとAlipayのみならず、海外受講者向けにPaypalも利用できます。海外の受講生の在住地は主に、米・英・豪・シンガポールなどの英語圏が多いそうです。

ちなみに中国ミュージシャン協会の統計によると、中国でピアノを学ぶ子供の総数は約3000万人で、VIP陪練の受講者数16万人はシェア0.53%にあたり、まだまだシェアを拡大していく余地が大いにあります。中国全体で所得水準や教育水準が上がっているからなのか、中国でピアノを学ぶ子供の総数は年間10%の割合で成長しており、市場の伸びもかなり期待できます。

価格

他サービスとの比較において、VIP陪練のもっとも重要な差別化要素の一つが価格でしょう。VIP陪練の授業料は1コマ(1時間)につき56-70元(約870-1090円)です。VIP陪練のセールス従業員によると、競合となるサービスにオンラインのものは存在せず、オフラインの従来のレッスンだと200-300元(約3110-4670円)が相場である、とのことです。安価でより多くの層に音楽教育にアクセスできるようにしたいと、CEOの葛佳麒もあるメディアのインタビューで強調しており、この方針を反映した価格設定であると言えます。

価格表

価格 1コマあたりの価格 授業時間数 宣伝した場合に増える授業時間数
16888元 56.2元 260コマ +40コマ
11000元 61.7元 150コマ +28コマ
7688元 70.5元 90コマ +19コマ

ちなみに、体験レッスンを受けた後にセールス従業員から電話がかかってきて、当日購入クーポンをWeChatで送ってもらえます。受講生のほとんどはこのクーポンを利用しているので、こちらの表で紹介している価格はこのクーポン込みのものです。また、WeChatのモーメンツ(LINEのタイムラインのようなもの)でVIP陪練を宣伝すると、受講できる授業時間数が増えます。中国ではWeChatのモーメンツでの宣伝はかなり威力が高く、拡散力があるので、この料金システムのおかげで、このサービスの認知拡大とユーザー獲得が後押しされていると考えられます。

さらには、当日即申し込みした場合には、イーグルアイレンズという1000元相当(約1万5555円)の器具がプレゼントされます。これは、ピアノにスマホをとつけるためのもので、レッスン受講時に重宝するようです。このように、お買い得感を誘う仕掛けがたくさんあります。こういったビジネスの巧妙さが、急成長の原因なのかもしれません。



サービスの強み

サービスとしての強みをまとめると、主に以下の2点でしょう。
1. 価格が安い
低価格でのサービス提供により、富裕層にのみ開かれていた音楽教育を、より広範な層がアクセスできるようにしましたターゲットにできるようになりました。
2. 場所を問わない、時間がフレキシブル
移動時間や、立地上の制約がないため、先生にとっても生徒にとってもうれしいです。音楽大学を卒業した人への雇用の受け皿にもなっているようです。



今後の課題と将来性

教師の質の担保が課題となるか?

VIP陪練は順調に売り上げ、ユーザー数を伸ばしていますが、弱点はどこにあるのでしょうか。教師の質の担保は、事業拡大の中で重要になってくるでしょう。VIP陪練によると、登録されている教師は大学でピアノ専攻を卒業した人に限定しているそうです。このように、ある程度条件を厳しくしながらも教師の採用を確保するために、音楽大学などと提携しています。

今後、テクノロジーをどう活用するか?

VIP陪練では、毎日200万から300万コマの授業を開催しています。アプリ上のシステムが効果的に授業内のデータを自動収集するため、教師が問題に直面したときに生徒をどのように指導すれば良いか分析できます。そして教師が授業中に問題に遭遇した際に、過去の指導事例のデータをもとにシステムが解決方法を自動的に導いてくれます。

「AIによる自動化された補助分析をシステムに依存しない場合、授業を効率的に改善することは困難だ」とCEO葛佳麒はインタビューで述べていますが、具体的にどのような側面でテクノロジーを活用しているのかは公開していないようです。



最後に

次回はVIP陪練の記事の後編ということで、筆者が実際に体験授業を受けた様子と感想を書きます。お楽しみに。

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