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中国EdTechの新星、松鼠AIとは?ーサービスの強みから融資状況まで - 中国EdTech #11

第11回は今中国EdTechベンチャーでもっとも急成長している企業の一つ、乂学教育とそのサービスである松鼠AIを紹介します。
小中学生向けのAI補習塾を提供しており、Aラウンドまでの融資総額は9億元(約150億円)と、なっています。その成長速度から中国EdTechのTikTokとも目される企業です。
本記事では、なぜ松鼠AIがこれほど投資を集め、中国国内で注目されているのか、その強みを探ります。

今回扱うトピック

  • 中国EdTechのTikTok!?松鼠AIとは
  • サービス解説 松鼠AIの何がすごいのか?
  • 松鼠AIのビジネスモデル
  • 松鼠AIを支える技術開発の仕組み
  • 松鼠AIの融資・投資状況
  • 今後の方針

中国EdTechのTikTok!?松鼠AIとは

松鼠AIの概要と沿革

松鼠AIは2014年に栗浩洋が設立した、小中学生向けのAI補習塾を提供する会社です。すでに教育大手の新東方・好未来などからの投資を含む9億元の融資を獲得しています。
2016年6月には、三年間の研究開発期間を経て、基幹技術となる松鼠AIをリリースしました。カーネギーメロン大学・スタンフォード大学・中国科学院などと共同で開発した個人学習最適化AIを活用し、学習の効率化と個別最適化を目指します。
提供するサービスは、学習塾の形態を取る松鼠AI・智慧適応教育です。これはすでに、中国国内で20省300都市に1800以上の提携校を持っています。

サービス解説 松鼠AIの何がすごいのか?

松鼠AI・智慧適応教育とはどんな塾?

出典:松鼠AI智适应教育的博客

これまで紹介してきたEdTechスタートアップとは異なり、松鼠AI・智慧適応教育は完全オンラインではなく、乂学教育の直営塾または業務提携した学習塾で行われる対面の授業とオンラインサービスが組み合わされています。
あえて塾というサービス形態を取る理由は二つあります。
一つは教師とのオフラインでのコミュニケーションです。日本の大手塾で採用されているチューターと考えると理解しやすいですが、松鼠AI・智慧適応教育では、塾の教師が、オンライン学習の前後で生徒とコミュニケーションをとり、モチベーションの維持など、生徒の感情面での問題をサポートします。
二つ目は学習に適した環境です。CEOの栗浩洋の説明では、松鼠AIはオフラインの学習環境を充実さえることを重視しており、完全なオンライン化を目指しているわけではありません。

授業内容に関していえば、現在は中学校全学年の国語、数学、英語、物理に対応しています。学習内容は高考受験に特化した効率的な学習を目指すものです。
価格は一年で2万元(約30万円)程度です。

松鼠AI・智慧適応教育の授業の流れ

松鼠AI・智適応教育の授業の流れを説明します。

  • まず生徒は、PC上でAI個人最適化測定を行います。
  • 問題の正誤や解答時間などの情報に基づき、松鼠AIがナレッジノードに応じて自動で不足している知識を認識し、それに応じた3~5分の講義動画を送信します。
  • 生徒は講義動画を視聴して不足している知識を学習します。個人に最適化した学習経路を設定するため、弱点によっては学年をまたいで復習することも可能です。さらに生徒の学習レベルに応じて到達度を戦略的に変更できるので、学習レベルの比較的低い生徒が、他の生徒と同じように、テストで出る確率の低い難問を解く必要がなくなっています。
  • またこの時、生徒は講義動画の内容に対して、その都度オンラインで教師の補修を受けることができます。
  • 最後に、再度習得度の測定を行い、生徒がどれだけ理解しているのかを把握します。

以上が大まかな授業の流れです。

松鼠AIの強み

乂学教育が提供する松鼠AIの特徴は簡単に言えば生徒の弱点把握とその対策の自動化です。
通常の塾では「教師が教える→生徒がわからないところを探して質問する→教師が解説する」というプロセスをとりますが、松鼠AIは「AIが生徒の弱点を把握する→生徒はそれに応じた講義動画を視聴」というプロセスをとることで、より効率的に生徒の弱点把握と弱点に応じたより的確な対策を行うことができます。
そうしたシステムを支える技術が、ナレッジマップです。

松鼠AIのナレッジマップは以下の5つの特徴を持っています。

  1. 極めて細かいナレッジノード。松鼠AIは中学数学の5000の主題を3万のナレッジノードに分解し、ナレッジマップを作成しています。
  2. 個々の生徒の学習能力に応じた学習方法の作成。生徒の学習能力に応じて、効率的な学習のためにナレッジノードを自在に組み替え、最適な学習計画を提案します。
  3. ナレッジノード間の関連度の測定。あるナレッジノードとの関連度、間接関連度を確率的に測定し、より少ない問題でより正確な学習成果を生み出します。
  4. 学習進度に応じた学習計画の再編成。生徒があるナレッジノードに関連した問題を間違えると、それに応じてナレッジマップ上の学習経路を変更し、学習計画を変更します。
  5. AIの自立学習。システム内の仮想の生徒と教師の学習プロセスのモデルを用い、AIが反復学習を行います。

具体例1:数学の教え方

中学数学を例に説明すると、「分数の加減法」という主題に関して、松鼠AIは100個のナレッジノードを設定しています。生徒が分数の加減法の問題を解く際に、最も難しい異分母分数の加減法ができなければ、レベルを下げてもう少し簡単な分数の足し算問題を解かせます。それができなければ同分母分数の足し算に、さらにできなければ分子が分母よりも小さい、同分母分数の足し算、それでもできなければ約分の必要ない同分母分数の足し算・・・という風にナレッジマップに沿って、生徒の弱点を把握します。

具体例2:国語の教え方

国語の読解問題の難点は、完全に正答することが難しく、誤答と弱点が一致しない可能性があることです。
そこで松鼠AIでは問題形式をさらに細かいテーマに分けて、間違えやすい傾向を把握します。
例えば小説の下線部読解問題では、時間・場所・空間・人物・感情など問われている内容ごとにナレッジノードを設定し、下線部読解問題のうち、間違える傾向が強いものとその関連項目を集中的にトレーニングします。

松鼠AIのビジネスモデル

提携校獲得方法

松鼠AIは直営店とフランチャイズ式業務提携という二つの方法でオフラインの塾を展開しています。業務提携に関していえば、松鼠AIの学習システムを提供するだけでなく、塾の設立から補助します。
現在は直営店の比率が高く、また一部業務提携先を買収し株式の51~65%を取得することで、校長とともに学校経営を行っています。
業務提携における基本的な方針として、松鼠AIは他企業の既存の事業に付加するのではなく、サービスを用いた事業を提携先と新規に作り上げる、というものがあるようです。
将来的には直営店と提携校の比率は2対8を目指します。

マーケット

現在、松鼠AI・智慧適応教育はすでに、中国国内で20省300都市に1800以上の提携校を持っており、北京・上海・深圳などの大都市だけでなく、地方都市にも進出していることがわかります。

松鼠AIを支える技術開発の仕組み

開発チーム

松鼠AIにはCTOの樊星を中心に中国内外から様々な研究者が集っています。
R&D部門には300人以上の社員がおり、アルゴリズムチーム、テクノロジーチーム、教育研究グループがあります。アルゴリズムチームはニューヨークにも拠点を持ち、合計20人が在籍しています。

他の海外拠点としては、スタンフォード大学国際研究院SRI、中国科学院とそれぞれAI連合実験室を持っています。

ナレッジノードの開発と実証実験

AI技術開発とは別に、松鼠AIの重要な基礎技術であるナレッジノードの開発は次の手順で行われました。

  1. まずそれぞれの科目の専門家が指導内容をより細かいナレッジノードに分解します。例えば中学数学では500の主題を3万のナレッジノードに細分化しました。
  2. 次にそれぞれのナレッジノードに対応した講義動画を作成します。
  3. 実証実験を行い、公立学校、補習校に無料でシステムを提供し、実際のデータを集め、アルゴリズムのモデルを最適化させます。栗浩洋によればこの実証実験で数十万の学生のデータを集めたそうです。

松鼠AIの融資・投資状況

9億元の融資の内訳は?

松鼠AIは今まで合計9億元の融資を獲得しています。それぞれの融資額と投資機関をまとめました。

シード投資3000万元(2015.6)

エンジェル投資2.7億元(2017.6)

  • 新东方教育
  • 国科嘉和:中国科学院の資産管理会社(中国科学院国有资经营有限责任公司(简称国科控股))と国内の大企業集団のファンド
  • 景林资产
  • 诺基亚成长基金:诺基亚投资の独立した投資ファンドで、資本は10億ドル以上
  • 好未来:K12塾大手
  • SIG:アメリカファンドSIGの中国ファンド。

Aラウンド投資6億元(2018.7)

投資状況

投資先

2018年8月には黒馬基金と共同で乂渠品牌管理(HPなし)に1300万元のPre-Aラウンド投資を行なっています。
乂渠品牌管理は教育産業向けのマーケティングサービス会社です。事業拡大準備期にはサービスパッケージ、予算分割、カスタマーサービス訓練、市場調査を、サービス運営時には組織構造設計、交渉ルート開拓を、取引時にはプラン作成、交渉、支払いを行います。
創業者は程明ですが、乂学教育CEOの周伟も取締役を勤めています。

今後の展望

創業者の栗浩洋によると、将来的には松鼠AIのソフトウェアをSongshuOpenAIプラットフォームとして開放し、国内の教育機関、公立学校、政府機関へのサービス提供を行う計画だそうです。
それぞれの機関は自分たちの持つ講義動画、学習テーマ、学習内容をプラットフォームに提供し、それらを決められた方法でタグ付けを行ってプラットフォームに組み込むことで、サービスを利用できます。
第5回で扱った好未来と同じように、テクノロジーを使ったサービスの開発と、プラットフォーム化戦略は大きなトレンドとも言えそうです。


参考

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